第1回アナログゲーム研究会
研究会の概要
- 日時:2026年6月13日(土)
- 場所:大阪商業大学 本館4F 432教室
- スケジュール【講演の詳細(敬称略)】
- 11:00〜12:00 大阪商業大学アミューズメント産業研究所 展示室見学(解説:松村 政樹先生)
- 13:00〜13:10 開会・研究会の趣旨説明
- 13:10〜14:00 松村 政樹(大阪商業大学)
「囲碁における制度の変遷:公平性の確保を目指して」 - 14:10〜15:00 古作 登(大阪商業大学)
「最古期の将棋棋譜の最新AIによる再検証」 - 15:00〜15:50 椎名 祐輝(弘前学院大学)
「地方都市におけるアナログゲームを用いた子どもの遊び場形成
―弘前市でのポケモンカードゲームイベント実践に向けた研究計画―」 - 16:00〜17:00 平田 清音(立命館大学)
「推論するプレイヤーたち
——アナログゲームとデジタルゲームにおける解釈実践の比較」 - 17:00〜 閉会・懇親会
- 参加登録フォーム(外部リンク)
講演のみの参加については,事前の参加登録は不要です(しかし登録していただくと参考になるので助かります)。ただし,午前の見学と懇親会は事前の参加登録が必須です。
講演の概要と資料
松村 政樹(大阪商業大学)
「囲碁における制度の変遷:公平性の確保を目指して」
囲碁は将棋と並ぶ、日本の伝統遊戯である。黒石と白石を交互に配置し、盤上でより多くの領土(地と呼ぶ)を占領した側が勝つゲームである。盤上のどこに打ってもプラスになるというゲームの性質上、先に打ち始める黒を持ったプレーヤーが有利になる。これまで、以下に挙げる3つの制度によって、「偶然黒を持ったプレーヤーが有利になる」という事態を避け、勝負の公平性を確保しようと試みられてきた。
- 複数対局を行う 一度だけの対局であれば「黒を持った方が有利」となってしまうため、黒と白を交互に持って複数対局(黒と白が同数になる)を行い、勝ち越した側を勝者にする
- 黒と白の勝利の価値を変える 黒が勝ったときに得られる点数よりも、白が勝ったときに得られる点数を大きくすることで、黒の有利さを補正する
- 白にハンデキャップを与える 地を計算する際、白の地にいくつか加点をしてから勝敗を決めることで、白の勝率を高める
これまで、古い順から1.、2.、3.と制度は変化しており、現代は③が用いられている。本報告では、これらの制度を紹介し、それぞれのメリットとデメリットを検討したうえで、制度の変化に応じた戦略の違いについても考察する。
古作 登(大阪商業大学)
「最古期の将棋棋譜の最新AIによる再検証」
江戸初期の将棋棋士の棋譜について筆者は以前から研究対象としてきたが、本稿ではこの10数年でトップ棋士の実力を超え、さらに進化を続ける将棋AI(人工知能)による分析を加え、なぜ最初期から角道を止める「振り飛車」が後手番を中心に多く指されたのか、またそれに対抗する居飛車側の「右四間飛車」が多く用いられたのかなど、定跡が確立していなかった当時の棋士たちの思考を現代の視点から分析する。数は少ないが、相居飛車や相振り飛車など力戦系の棋譜についても解析を試みる。また、最初期の棋譜から「香落ち」の実戦も合わせて研究対象とし、当時の上手と下手が駒落ちのハンディをどのように実戦に認識し対局の着手に反映していたかについての考察も行う。
椎名 祐輝(弘前学院大学)
「地方都市におけるアナログゲームを用いた子どもの遊び場形成―弘前市でのポケモンカードゲームイベント実践に向けた研究計画―」
本報告では、地方都市における子どもの遊び場形成の課題に対し、ポケモンカードゲームをはじめとするアナログゲームがどのような役割を果たしうるのかを検討する。近年、子どもの居場所づくりや地域における多世代交流の重要性が指摘される一方で、地方都市では商業施設、公共施設、学校外活動の選択肢が限られ、子どもが継続的に集まり、安心して遊ぶことのできる場の確保が課題となっている。報告者はこれまで、名古屋市においてポケモンカードゲームを用いた地域イベント「ノーマライゼーション杯」を実践し、子ども、保護者、障害のある参加者、初心者、競技者が同じ場に集う交流の場を運営してきた。本報告では、その実践経験をふまえ、弘前市において新たに展開予定のポケモンカードゲームイベントを、単なる競技大会ではなく、地域における遊び場および居場所形成の実践として位置づける。研究方法としては、イベントの運営記録、参加者の観察、保護者や子どもの語り、主催者自身の実践記録を用い、アナログゲームが参加者間の関係形成、世代間交流、地域参加、自己表現に与える影響を質的に検討する。これにより、アナログゲーム研究において従来十分に扱われてこなかった、地方における遊びの場づくりとケア的実践の接点を明らかにすることを目指す。
平田 清音(立命館大学)
「推論するプレイヤーたち——アナログゲームとデジタルゲームにおける解釈実践の比較」
本発表は、「考察」が文学的な作品解釈とゲーム的な攻略・推論を横断する文化実践として成立している点に着目する。これにより、「考察」どのような文化実践であるのか、また、「考察」の対象はどこへ向けられているかを明らかにする。
現代のウェブ空間において、「考察」と呼ばれる受容者によって作品を論じる言説空間がある。「考察」はウェブ空間を中心に発展した、断片化された情報から全体像を再構築しようとする推論実践であり、不完全情報ゲーム的な性質を持つ。また、その対象となる作品はアニメや漫画、ゲームやテレビドラマといった大衆文化全般でみられる。現代ゲーム文化における「考察」は大きく分けて3つの側面が指摘できる。一つはソウルライクなゲームにおけるlore考察などゲーム内の世界設定やキャラクター同士の関係性、時系列の整理などビデオゲームのフィクションの掘り下げを目的とした物語推論の側面(茅野, 2020)で、文学的な作品読解に近い性質を持つ。二つ目はARG(Alternate Reality Game)や隠された伏線、イースターエッグなど作者の意図を推論する側面(神山, 2026)であり、三宅(2025)が「作者の意図を当てるゲーム」であると指摘している。三つ目はキャラクターの性能の考察やメタ分析、最適構成の検討といったシステムを解釈する側面であり、ルールの読解に焦点が当てられている。しかし従来のゲーム研究やファンダム研究では、「考察」は作品解釈、攻略、推論をそれぞれ単独で論じる研究はあるものの、異なる実践の総称として十分整理されてこなかった。
このような問題点を踏まえ、本発表では「考察」の対象となるアナログゲームをビデオゲームも含めて比較し、質的な分析を行う。アナログゲームからはTRPG・人狼ゲーム・マーダーミステリーなどを取り上げ、ビデオゲームからはlore考察やキャラクター性能分析を取り上げ、「考察」の対象を比較軸とする。
これにより、「考察」は文学における「解釈」とゲームにおける「攻略」および「推論」の双方を対象としている、不完全な情報環境における推論実践であるという仮説を提示する。また、ビデオゲームにおいて「考察」と呼ばれる概念は物語読解、攻略、謎解きという要素を併せ持っていることと、ビデオゲームと比べてアナログゲームでは「考察」される対象が「他者」へ向きやすい点が指摘できる。
参考文献
- Aarseth, Espen J, 1997, Cybertext: Perspectives on Ergodic Literature. Baltimore:JHU Press.
- 東浩紀, 2001, 『動物化するポストモダン オタクから見た日本社会』 講談社.
- 茅野. 「ゲーム考察を考察する - ゲーム考察入門書」, 世界観警察, 2020年4月22日. https://sylphes.hatenablog.com/entry/2020/04/22/121556.
- Jenkins, Henry, 2006, Convergence Culture: Where Old and New Media Collide. New York University Press.
- Juul, Jesper, 2011, Half-Real: Video Games between Real Rules and Fictional Worlds, The MIT Press. (=松永伸司訳, 2016, 『ハーフリアル: 虚実のあいだのビデオゲーム』合同会社ニューゲームズオーダー.)
- 神山六人. 「考察と攻略の交錯(仮)②|神山六人」, note, 2026年2月16日. https://note.com/photo_1236/n/n518fc41ace9c.
- 三宅香帆, 2025, 『考察する若者たち』 PHP研究所.